なるほど、これは問題作だ―――、そんな気持ちを私が持ったのは2021年下半期から2022年上半期にかけてネットを騒がせた漫画『タコピーの原罪』です。
みんなをハッピーにするために、ハッピー星からやってきた宇宙人”タコピー”といじめられっ子の”しずか”との出会いから始まるハートフルストーリーかと思いきや、これが全然違う!
しずかをハッピーにするためのハッピー道具のはずが、しずかを自殺に導いてしまう、という鬱展開盛りだくさんのハートフルボッコ漫画でした!
もっとも、表向きはタコ型地球外生命体であるタコピーといじめられっ子のしずかとの交流譚なのが更にタチが悪いです、良い意味で(笑)
今回はこのハートフルボッコ漫画『タコピーの原罪』をご紹介します!!
いや、もうね。このタコピーって奴がいまいち人の気持ちを理解できていないというかどうしようもなく愛らしいのですよ。
というか”愛すべきタコ”すぎて憎めないんだけど、考えてみたらコイツが全ての元凶だし、悪意無き悪魔って感じ。
ハッピー道具の存在が”ドラえもん”のひみつ道具みたいでドラえもんのオマージュなのかと思いきや全然違う。
救いようの話の連続で最初からフルスロットルのジェットコースター!!
もう自分で何を言っているのかわからなくなってるけど、上下巻の2巻しかないのに、ダレることなく面白かった!
もちろん、人によって評価は分かれたり鬱になる人もいるかと思うけど筆者的にはなかなかにダークで好みの展開でした。
詳しくは下で語っていきます。
1.作品情報
ジャンル:ヒューマンドラマ
タコピーの原罪 – Wikipedia
サイエンスファンタジー
作者:タイザン5
出版社:集英社
掲載サイト:少年ジャンプ+
レーベル:ジャンプ・コミックス
発表期間:2021年12月10日 – 2022年3月25日
巻数:全2巻
話数:全16話
2.あらすじ【ネタバレあり】
第1巻(上巻)
ハッピー星からやってきたタコピーは、いじめられっ子の小学生しずかと出会う。
犬のチャッピーを連れたその少女はどこか儚げだけど可愛くて、タコピーともすぐに仲良くなれた。
しずかと遊びたいタコピーは様々なハッピー道具を出すが、しずかの笑顔はなぜか見られない。
タイムカメラでしずかと写真を撮るもののやはり、写真に写るしずかの顔は曇り顔。
その後、チャッピーと戯れるしずかの笑顔を見てタコピーは、ほんの少しのやきもちを抱きながら安心するのだった。
日々増えていく、しずかの傷。”いじめ”というものを知らないタコピー。
チャッピーの姿が消えたある日。タコピーは友達と仲直りできるようにとハッピー道具”仲直りリボン”を渡す。
それがハッピー星の掟を破っていることも知らずに……。
しずかの家に行ってタコピーが見たのは”仲直りリボン”を首に巻き付けて自殺したしずかの姿だった。
タイムカメラで撮った写真を見つめるタコピー。
タコピーは決意する。ハッピーカメラの時間を戻す魔法を使ってしずかを救うことを―――。
しずかの学校について行くタコピー。
そこで見たのは雲母坂まりなにいじめられるしずかの姿だった。
しずかに変身してまりなと話そうとするタコピーだったがいじめの恐怖にすくんでしまい何も出来ずに終わってしまう。
エスカレートするまりなのイジメ。
しまいには大切なチャッピーを保健所送りにして、しずかと引き離してしまう。
ふさぎこむしずか。どうやっても止められないタコピー。
そして、まりなの家には荒れた母親の姿が……、まりなの父親はしずかの母親に浮気をしていたのである。
終わらないまりなのイジメ、
森に呼び出されたしずかは、いつにも増したいじめを受けることになる。
「パパを返せよっ」その叫びとともにタコピーは決心する。
「助けなきゃ」の思いを胸に、タイムカメラを片手に、タコピーのとった行動は―――まりなを殺してしまったのであった。
壊れたタイムカメラ。初めてタコピーに見せてくれたしずかの笑顔。もうやり直しはできない。
やりなおしの無いタコピーの物語『タコピーの原罪』はここから始まったのであった。
まりなの死体を東に見られてしまったしずか。
しかし、しずかは動じない。同時に先生の魔性女ぶりを発揮し東を誘惑、死体処理を手伝わせる。
東の協力とタコピーのまりなへの変身をもって、まりな殺害の証拠隠滅に成功したのだった。
そして、タコピーはこれが悪いことなど知る由もない―――。
第2巻(下巻)
明かされる、まりなと東の複雑な家庭環境。
片方は浮気、離婚、片方は優秀な兄との比較。
タコピーはハッピーとは違う人の悪意に触れていくことになる。
そんなとき、埋めていたまりなの死体が発見される。
テストの点数が落ちて母親に見放され絶望にうちひしがれる東の前に現れたしずかが言い放った言葉。
「これ持って、自首して?」
渡される証拠品となるカメラ。それでも東はしずかの頼みには逆らえない。
東は兄と和解して、打ち解けて、そして―――しずかのために自首を選んだのだった。
東くんはもう助けてくれない―――、そう言い放つしずかは夏休みを利用してチャッピーが居ると思われるパパのところにいく。
しかし、そこにチャッピーの姿はなく、幸せそうに別の家族と暮らす父親の姿だけがあった。
「あの子供たちがチャッピーを食べちゃったのかも?」
狂っていくしずか。その姿を見たタコピーただただ慰めることしかできない。
「もう帰ろうっピ。」
苦しみ、狂うしずかを見たタコピーは帰ってハッピー道具で遊ぶことを提案するも拒否。
しずかはもう闇落ちして言える。もう元には戻らない。
「タコピーももう助けてくれないんだ」
その言葉を最後にタコピーの意識は途絶えた。
しずかと出会う前にタコピーはまりなと出会っていた。
高校生のまりなは不良娘として恐れられていたが、なんだかんだでタコピーとは仲良くなっていた。
そんなときに東と再会したまりなは東と付き合うことになる。
複雑な家庭環境の中でもまりなはタコピーに「最近はちょっと悪くない」と微笑んだ。
しかし、小学生からの再開は東だけではなかった。
久世しずか―――、彼女も街に帰ってきていたのであった。
すれ違う東としずか。東の思い人であるしずか。別れを告げられるまりな。
3人の関係は複雑に絡み合い、まりなは気が付いてしまう。
「いじめるだけじゃなく、小4のときにちゃんと殺さなきゃだった。久世しずかを…」
久世しずかの誘惑に乗せられていく東。
絶望していくまりなは同時に母親とも喧嘩してしまう。
そして気が付いたとき、まりなは母親を殺害してしまう。
そんなまりなを見たタコピーはひらめく。
「小4のときに久世しずかを殺せば、まりなちゃんハッピーだっピね!」
大ハッピー時計を使ってタコピーは時間を戻す。
全てはまりなの願いを叶えるため。まりなをハッピーにするため。
直後にまりなは自殺した。
ハッピー星に戻ったタコピーは掟を破ったとして記憶を消されて時間を戻されてしまうのであった…・
全てを思い出したタコピー。
久世しずかのせいで、まりなちゃんはパパを東くんをママを失った。
久世しずかは悪だ、殺さなきゃ…。
そう思うタコピーだったが同時に気が付く。
あのときしずかちゃんをいじめていたまりなは悪ではないのか?と。
東に真実を全て打ち明けるタコピー。
良い子だったり悪い子だったり、がわからないことだらけで困るタコピーに東はアドバイスする。
「そりゃそうだろ、いいとこも悪いところもある」と。
そして東はタコピーに別れを告げ去っていった。
再び、しずかと対峙するタコピー。
「私はどうすれば良かったの?」
「わかんないっピ」
ただただ謝るタコピーにしずかは泣きじゃくる。
ずっと、タコピーと手をつないで過ごす日々。
タコピーと遊んですごす日々。
ママもパパもチャッピーもまりなも東ももう戻らないけど、タコピーが居るだけでしずかの心は満たされていた。
ここまで無力なタコピーだったが、自身のハッピー力を犠牲にしてハッピーカメラの能力を元に戻す。
しずかちゃんを笑顔にするために。
タコピーはしずかに別れを告げて、全てが始まる前の2016年に時間を戻すのであった。
その世界では東クンは兄とちゃんとケンカして、しずかと関わることなく。
まりなは相変わらず、しずかちゃんをいじめているけど、タコピーの落書きを見て何かを思い出し。
いつの間にか、しずかちゃんとまりなちゃんは仲良しになり。
タコピーはほとんど何もできなかったが、しずかとまりな、そして東を少しだけ救うことができた。
最後の場面、そこには仲良く買い物をするしずかとまりなの姿があった―――。
3.登場人物
タコピー
主人公。ハッピー星出身の地球外生命体と言われているがその風貌はまんまタコである。
喋る際は語尾に「っピ」がつきウザイ。
ハッピーを広めるために地球に渡来、仲良くなったしずかのいじめ問題を解決するために奔走するもののかえって事態を悪化させてしまう愛すべき無能である。
微妙なハッピー道具を駆使することなく間違った用法で、まりなを殺害。
そのことが一番、しずかに評価されているのだからどうしようもない無能なのである。
ちなみにコイツは人の「悪意」を理解できないハッピー思考であり、常に脳内お花畑なので、何も悪気は無い。
久世しずか(くぜしずか)
本作のヒロイン。サイコパス。まりなにいじめられており、母親はネグレクト。
まりなが死亡してからは天性の悪女ぶりが覚醒し、東(あずま)を誘惑、下僕化する。
同時に自己中心的になり人を見下し、自身が生き残るためならば他人を思いやらない側面を持つ。
ただし、根幹の性格は優しく、こんな状況、人生を送らなければ、まりなと対等な友達になれるぐらい普通の子であったかもしれない。
雲母坂まりな(きららざかまりな)
本作もう一人のヒロイン。というより真のヒロイン。
父親をしずかの母親に寝取られたことから、しずかをイジメ、犬のチャッピーを保健所送りにするという狡猾さを持つ。
しかし、タコピーによって殺害されてしまうという悲惨な最期を遂げる。
別の世界線では、しずかより先にタコピーと出会っており、タコピーにしずか殺害を願っている。
東直樹(あずまなおき)
しずかのことが好きな男の子。
しずかに頼まれるとNoとは言えない。すでにしずかの魔性にやられている系男子。
しずかのためなら犯罪にも手を貸すし、刑務所に自首にだって行っちゃいます。
最後にタコピーを友達と認める。しずかに陣sネイを狂わされた被害者でもある。
別の世界戦ではまりなの彼氏だが、しずかに浮気する。
4.『タコピーの原罪』の感想、評価、レビュー
一言でいえば、これはノンストップでフルスロットルジェットコースターな衝撃作である。
ハッピー道具なるひみつ道具に似ているドラえもんのオマージュかと思えばそうでもない。
タコピーという愛らしい生き物と織りなすハートフルな物語なんかでもない。
むしろ、『魔法少女まどかマギカ』のキュウべぇに近いが、純粋善で悪気が無い分、ある意味ではたちが悪い。
あるのは絶望であり、救いようのな事実。
それを悪意のしらないタコピーが少しだけ成長して少しだけ友達を救う物語。
絵は雑だが、物語への没入度はとてもたかく筆者は上下巻を一気読みしてしまった。
上下巻構成という短い物語がまた読みやすくていいのかもしれない。
人によっては鬱作品と呼ばれて毛嫌いする人もいるかもだし、しずかちゃんはサイコパスなので不快感を示す方も居るかもしれない。
しかし、この作品は正に2022年度に完結した作品としてはトップレベルの作品だと思う。
壊滅的に何もできないけど一生懸命なタコピー。
いじめられっこだけどどこか影があって魔性のサイコパスである久世しずか。
本当はしずかと友達になれたはずなのに、ちょっとした歯車の違いでいじめを繰り返すことになった雲母坂まりな。
優秀なアニキとの対比によって生み出された劣等感に際悩まされる東直樹。
その全てのキャラクターが現実世界に居てもおかしくないぐらい魅力的です。
私は特に2巻(下巻)の下記のシーンが好きです(笑)
もうね、まりなちゃんの絶望感とさらっとヤバいことを言っているタコピーの表情がものすごく対比的で…w
鬱展開盛りだくさんで万人にオススメは出来ない作品ではあるけれど、
筆者の『絶対読んでほしい!名作漫画レビュー』シリーズで紹介している漫画が面白いと思う読者にはオススメしたい作品です!
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